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Peter Broderick [USA]


Colours of the Night

Colours of the Night

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Bella Union (Imp542)
  • 発売日: 2015/05/18
  • メディア: CD



   昨日、市ヶ谷で Peter Broderick の来日コンサートを見に行ってきました。 
予想通りの素晴らしさに、いまだに興奮を抑えきれません。 ルーテル市ヶ谷教会の
ホールは、パイプオルガンが設置されているなど、クラシック音楽向きのもの。 普段は
ポピュラー・ミュージックでの利用は少ないようですが、この会場がまた Peter Broderick
の研ぎ澄まされた音にはぴったりで、素晴らしい音響も含めて、非常に心に残る音楽
体験となりました。

   コンサートはゲストの Brigid Mae Power という清楚な女性 SSW でスタート。
ギターの弦を新しくしたばかりということで、チューニングが上手くできずに、Peter に
お願いしたりと、アマチュアな感じもしましたが、その美しい声にはうっとりしてしまいま
した。 5 歳の男の子の母親ということですが、今度アルバムをじっくり聞いてみたい
と思います。 2曲目に演奏した曲では、Peter をバックコーラスに迎えたのですが、
この曲が秀逸でした。

   Peter Broderick のほうは、予想通りピアノの弾き語り。 ボーカルパートが少
ないために、どこで歌唱が始まるのか、あるいはそもそも無いのかが読みづらい展開
でした。 そんななか、一つ一つの音を大事にする演奏姿勢には、神々しいオーラを
感じ、咳一つできないような緊張感に包まれてコンサートは進行。 途中で、Peter が
客席にまで歩みよって、独唱を続ける場面があったり、Steinways & Sons のグランド
ピアノの中に身を乗り出して歌唱するなど、独特のパフォーマンスにも心打たれてしま
いました。

   アンコールのラストでは、このブログでも 2011 年 3 月に取り上げた名盤「How
They Are」のラストを締めくくる名曲「Hello to Nils」を演奏。 もっとも聴きたかった曲
だけに鳥肌モノでした。 真のミュージシャン、心を震わせる音楽とは、こういうもの
なのだと改めて実感した夜となりました。

   さて、今日紹介するのは、そんな Peter Broderick が2015年にリリースした
バンドスタイルのアルバム。 ドラムスやベースが入り、曲によってはストリングスや
管楽器も参加しており、曲調もバラエティに富んだものとなっています。 耽美的で、
抑制のきいた孤独感あふれるスタイルのPeter Broderick を期待して向かい合うと、
ちょっと意外に感じてしまうかもしれません。 とはいえ、やはり個々のサウンドの
出来栄えはしっかりしており、ソロではない彼の姿も見てみたくなるような、そんな
アルバムです。

  はやくも次の来日を期待しつつ、間違いなく行こうと思っています。



   

The Autumn Defense [USA]


Once Around

Once Around

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Yep Roc Records
  • 発売日: 2010/11/11
  • メディア: CD


   Wilco のメンバー 2 人が組んだ癒し系のフォーク・ユニットが来日すると
いうニュースをネットで知ったのが今年の初頭。 ちょうど予定がなかったので、
当日券で渋谷クラブクアトロに駆け込んだのが 14 日でした。 

   これが何という幸運でしょうか。 自分がある意味理想としていた音楽の
エッセンスが全編にわたってちりばめられた至福の時間だったのです。

   あわてて、The Autumn Defense の CD を全部買おうと決めたものの、入手
困難なものもあって、まだ3枚しかそろっていません。 しかし、どれもこれも最高の
仕上がりで甲乙つけがたいものになること必至だと思います。 そんななかでも
個々の楽曲のクオリティー、とくに覚えやすさでは、この 2010 年の「Once Around」
が抜きんでているように思います。 ビートルズやニルソンのような親しみのある
メロディー、繊細なボーカルとやすらぎのコーラス、ひっそりと遠慮がちな演奏など
が見事なバランスで融合しており、ほぼ完ぺきな作品と言っていいでしょう。


   僕はこんなアルバムを待っていたのです

   簡単にメンバーを紹介すると、The Autumn Defense はWilco の前身バンド
Uncle Tupero 時代からのメンバー、John Stiratt と Patrick Sansone による
ユニット。 Patrick は The Autumn Defense の2枚目を発表したあとに、Wilco
に正式加入したとう経歴の持主です。 Wilco でもサウンドの核をになう二人が
Jeff Tweedy と距離を持って、リラックスしながら作り上げたのが The Autumn
Defense といえるでしょう。

   今まで知らなかったことを強く後悔していますが、まだ知らない人には
自信を持ってお薦めしたい大人の癒し系サウンドです。


John Fullbright [USA]


From the Ground Up

From the Ground Up

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Blue Dirt Records
  • 発売日: 2013/03/07
  • メディア: CD


   驚きました。 この作品が2012年のものだとは。

   パッケージやたたずまい含めて、完全に1970年台の古き良き スワンプ系のSSW
サウンドそのものです。 ロックバーで50過ぎの音楽好きのおやじさんたちに聴かせたら、
まちがいなく「これ誰だったっけなあ?」とか「トニー・ジョー・ホワイトかなあ」といった感想
が聞かれるに違いありません。

   生まれてくる時代を40年ほど間違った今日の主人公 John Fullbright はオクラホマ
出身のシンガーソングライター。 なんとまだ20代ということで、この老成ぶりが信じられ
ません。 基本ギターかと思ったら、ピアノ弾き語りの曲もあったりして、なかなか器用な
ミュージシャンのようです。 迫力のある堂々とした歌いっぷりもかっこよく、ライブで見たら
そうとうしびれるだろうなと思います。 

   実は、まだアルバムを聴いている途中でこれを書いていて、最後までたどりついて
いないのですが、その段階で自信をもって名盤だと宣言します。

   最近、いい音楽がめっきり少ないなあと感じていたり、買っているのは再発CDばか
りという人はぜひともこの素晴らしい音楽に接してもらいたいと思います。


The Milk Carton Kids [USA]


Ash & Clay

Ash & Clay

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Anti
  • 発売日: 2013/03/26
  • メディア: CD


   どこかのサイトか、CDショップの店頭かで、「現代のサイモンとガーファンクル」
と紹介されていた新人二人組のデビュー作。 安易なキャッチコピーには心は動か
なかったのですが、この淡いジャケットとバンド名、そしてタイトルからして、ある程度
想像できるなあと思って手にしてみました。

  このジャケットは、イギリスのネオアコ・バンド「Eyeless In Gaza」の「Back
From The Rain」 をおとなしくしたような印象です。 紙ジャケットの肌ざわりも
アナログ・レコードのぬくもりを感じます。

  そんな The Milk Carton Kids は Kenneth Pattengale と Joey Ryan
によるアコースティックなデュオ。  ほとんどの楽曲でふたりがハーモニーを
奏で、美しいギターの音色とボーカルだけの淡いサウンドが延々と繰り広げ
られます。 クレジットには、Kenneth が1954年製の Martin 0.15を、Joey が
1951年製の Gibson J45 を弾いていることが自慢げに明記されており、その
ギターを大切に保管しメンテナンスしてきた Norik Renson なる人物の好意
であることもさりげなく触れられています。

   こうしたビンテージ楽器の代表格はもちろんヴァイオリンですが、ポピュラー
音楽の世界でも徐々にこうした現象が見られてくるのでしょう。 デジタルに
慣れきった音楽シーンへのアンチテーゼなのか、アコースティックなサウンドを
追及した先にたどりついた原点回帰なのかはわかりませんが。

   さて、このアルバム。 何と言えばいいのか、悪くはないのですが、さすが
にメリハリ不足という印象はぬぐえません。 午後の紅茶タイムのようにまどろむ
気分には最適なのですが、そのまま眠りに落ちてしまることを推奨しているかの
ような作品に仕上がっています。

   昨今では、アコースティックなグループがグラミー賞をもらったりしているので
、そうしたマーケットを虎視眈々と狙っているのか、趣味が高じてデビューにたどり
ついただけなのか、まったくわかりませんが、彼らの実力と行く末については、
もっとわかりません。 

   気にはなるので、次の作品が出たら必ずチェックしようと思いますけど。
そういえば、Williams Brothers という似たようなバンドがいましたね。 ふと思い出し
ました。 彼らは何をしているのでしょうか。



The Civil Wars [USA]


Barton Hollow: International Edition

Barton Hollow: International Edition

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony Import
  • 発売日: 2012/03/06
  • メディア: CD


   昨年のグラミー賞で「ベスト・フォーク・アルバム」と「ベスト・カントリー・デュオ・
グループ・パフォーマンス」の2部門を獲得した男女のユニット。 1年遅れで今ごろ
手にしました。 ガラス窓越しにカフェの店内を映したと思われるモノクロのジャケット
に惹かれてのことです。

  しかし、このユニットは Joy Williams と John Paul White の不仲により、ツアー
が途中でキャンセルになり、修復不可能な状態に陥っているとのこと。 男女の仲では
よくあることですが、二人はこの作品をどのように感じ取っているのでしょうか。 懐か
しい思い出となるのか、忌々しい遺物となるのか、ちょっと興味があります。

  さて、そんな後日談を知ることもなく、素直にアルバムに接するならば、非常に質素
で良くできた作品だと思います。 ダルシマーなどは入ってきませんが、アパラチアン
の針葉樹林の香りがします。 レコーディングはカントリー・ミュージックの聖地ナッシュ
ビルなのですが、もっと北の寒い土地で録音したかのような凍えたイメージが、アルバム
全体に付きまといます。 似ている感じでは、Swell Season が好きな方には間違いなく
お薦めできると思います。

  次の作品が生まれる見通しのない The Civil Wars ですが、まったくバンド名が皮肉
ですね。 二人で市民戦争している場合ではないのに。


Ron Sexsmith [USA]


Forever Endeavour

Forever Endeavour

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Mri Associated
  • 発売日: 2013/02/05
  • メディア: CD


   アルバムが出るたびに迷わず購入する数少ないミュージシャン、Ron
Sexsmith の新作です。 もう何枚目になるのかわかりませんが、そろそろ
10枚くらいになるのでしょうか。 気になる人は Wikipedia へ直行してください。

   さて、そんな新譜に期待することは、一定の品質保証と、切れ味のある
いくつかの楽曲の存在、という2点に絞られます。 前者に関しては、迷わずに
購入する側の責任もあるし、彼の音楽を長く聴き続けている人であれば、問題
ないことは明らかです。
   となると、問題は後者なのですが、これまで数回聴いた限りでは、パソコン
のキーボード入力を止めてしまうほどのインパクトのある楽曲は見当たりません。
もちろん、ふんわかした流れとかアレンジは申し分ないのですが、泣く子も黙る
ような曲はどうやら存在しません。 するめのように味わいは徐々に増してくるの
でしょうが、食べた瞬間に「旨い!」というものではないようです。
   それが、Ron Sexsmith だよ、言われればその通りなのですが、最近の
David Mead などでスゴイ1曲があったりするのと比較すると、やや物足りなさを
感じてしまいました。

  プロデュース、アレンジ、そしてキーボードで Mitchell Froom が全面参加。
ドラムスに Pete Thomas、ベースに Davey Faragher などおなじみのベテランも
名を連ねています。 

   その安心感もそえて、着実なお買物としていかがでしょうか。


Don Peris [USA]


Brighter Visions Beams Afar

Brighter Visions Beams Afar

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Stella
  • 発売日: 2011/12/11
  • メディア: CD


   西荻窪に「雨と休日」という小さなセレクトCDショップがあることを、数か月前
に知りました。 それから、行きたいとは思いつつ機会がなかったのですが、先週
の土曜日に、偶然ですが同窓会が西荻窪で開催され、その店にいく途中で発見
することができました。

   わずか4畳半くらいの広さに、30タイトルくらいを厳選してレコメンドするその
お店のスタイルに驚かされたのですが、すぐに目についたのが、このブログでも
絶賛したことのある Don Peris の「Go When The Morning Shineth」でした。
「ふむふむ、いいセンスしてるな」と思って近寄ったところ、その隣においてあった
のが、Don Peris のクリスマス・アルバムだったのです。

  こんな陸奥A子の初期の少女漫画のような出会いで手にしたアルバム。12月
に入ったこの季節でもあるので、悪かろうはずがありません。我が家の今年の
クリスマスの BGM はこの CD に決定です。

  全曲、Don Peris の 繊細なギターで綴られた全 15 曲。 なかには、「エリーゼ
のために」のような、クリスマスとは縁のなさそうな曲もありますが、暖房で暖まった
部屋で、キャンドルを見つめながら静かに過ごすための作品集となっています。

  このような素敵なアルバムは人生の宝物として、そっと大切にしておきたいです
ね。 国内盤の帯には「大切なひとにそっと耳打ちして教えたくなる、そんな作品
です」 と書かれていますが、まさにそのとおり。 
   ブログに書いてしまってすいません、という感じですが、それほど読者も多く
ないので、じわっと伝わればいいかな、と思います。

   早いもので、今年ももうすぐ終わりですね。

Fiona Apple [USA]

  
アイドラー・ホイール

アイドラー・ホイール

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2012/07/04
  • メディア: CD


   知名度もあり、一般的な評価が高く、音楽そのものにも興味があるのに、なぜ
か、しっくり入ってこなかったり、うまく消化できない...。 そんなアーティストは誰にも
いると思いますが、僕にとって、今日とりあげた Fiona Apple もその一人です。


  そんなこともあって、実に7年ぶりの彼女のアルバムとの向かい方も、特段に
身構えるようなものではありませんでした。 もちろん、過去の作品との対比もできま
せんし、過剰な期待もしないで聴くこととなりました。
  よく、考えると、そんな気持ちで聴くレコードって、そんなに多くないかもしれません
ね。 平常心、というのは陳腐な言い回しですが、まあたまには悪くないでしょう。

  アルバムの冒頭は、日本の祭囃子みたいなサビが印象的な「Every Single Night」
でスタート。 このダサい感じは妙に新鮮。 5曲目の「Left Alone」に象徴されるように
アルバムはパーカッションの存在感が特徴でしょう。 ピアノの弾き語りのような、ありふ
れたシンプルな楽曲もあるのですが、彼女の個性はこうしたトリッキーな違和感に包まれ
たほうがまっすぐに伝わってくるような気がします。
  
  むかし、誰かさんが Fiona Apple の名前をみて、「アメリカの椎名林檎か?」と言った
とか言わないとか... でも、このジョークもあながち大きく外したものではないかもしれませ
んね。 双方のファンに怒られてしまうかもしれませんが。

  最後に、このアルバムのタイトルを全文表記しておきましょう。 こういう長文をタイトル
にするあたりで好き嫌いが分かれてしまうし、門前払いされてしまう危険性もあると思う
のは余計なおせっかいでしょうか。

The ideler wheel is wiser than the driver of the screw and whipping cords will serve you more than ropes will ever do.


Rufus Wainwright [USA]


Out of the Game

Out of the Game

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Decca U.S.
  • 発売日: 2012/05/01
  • メディア: CD


  Rufus Wainwright のアルバムの中で、もっともポップで親しみやすい
作品との触れ込みで、話題になったものの、いつもと同じような雰囲気で、
しかるべきところに落ち着いた感のある新作を取り上げてみました。

  プロデューサーに、最近売れっ子の Mark Ronson を起用したとのこと
ですが、彼の指向や過去作品に関する知識もないために、それがこの作品
の内容にどう関与したかはコメントしようがありません。

  ただ、ポップになってわかりやすく、彼の音楽をより身近なところに引き
寄せた貢献は少なからず、プロデューサーの手腕があってのことでしょう。
  1曲目「Out of the Game」のサビなんかは、明るくなった Ron Sexsmith
を思い起こさせます。  おとぎ話のなかに紛れ込んだみたいな「Welcome to
the Ball」、Rufus の美声が堪能できる「Montauk」、変拍子とめくるめくメロディー
が錯覚の世界にいざなうような「Perfect Man」など、個々の楽曲は変化に
富んでいて、飽きさせない展開を見せています。

  ラストの「Candles」に至っては、父親 Loudon Wainwright Ⅲがボーカルで
、伯母の Anna McGarigle がアコーディオンで参加しており、音楽一家で育った
彼らしいエンディングとなっています。 さらにクレジットをよく見ると、コーラス
にはMartha Wainwright (これは妹ですかね)、Jenni Muldaur (マリア・マルダー
の娘?)、そして Lucy Roche (ローチェス三姉妹の誰かの娘?)など、彼の
家族や友達の輪が集っていました。 緩やかな川の流れのような 7分を超える
大作ですが、特別に神聖な雰囲気もただよい、バグパイプの音色が郷愁を誘い
ながら、アルバムは静かに幕を下ろします。

   こうして何度か聴きこむと、たしかに Rufus Wainwright の魅力である美声と
ソング・ライティングの安定感はいかんなく発揮されていました。 しかし、彼が
日本でいま以上に知名度を上げるために必要な決定打となる作品になったかと
いうと微妙な気もします。 けして悪いアルバムではありませんが、そんなことを
考えると微妙な気分になってしまいました。 僕のようなひねくれたリスナーには
もっと難解で遠い存在のままでにいてくれたほうがいいのかもしれません。

   もちろん、それは少数派の意見ということで。


The Black Keys [USA]


エル・カミーノ

エル・カミーノ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2011/12/21
  • メディア: CD


   アメリカのロック・フェスティバルで「コーチェラ」というデカいフェスティバルがある
ようです。 当然ながら行ったことはないのですが、3日間のうち初日のヘッドライナー
(紅白でいうトリみたいなもの)を彼らがつとめると人づてに聞いて、初めて存在を知りま
した。

   ほんと、その程度の予備知識ですが、2日目のトリは Radiohead だし、アメリカでは
相当な人気があることの証には違いありません。 日本ではまだまだで、タワレコとかでも
大展開というわけにはなっていないようです。 しかし、よほどの実力がないと、ヘッドライ
ナーは難しいわけで、そのあたりを CD 音源から見出すことができるかいう点に的を絞って
買ってみました。

  「El Camino」というスペイン語のタイトルからして、アメリカとメキシコのボーダーあたり
のほこり臭いサウンドを誰もがイメージすると思います。 しかも、このクルマのジャケットは
1970年代の雰囲気もただよいます。 で、実際聴いてみると、だいたい想像通りでした。
  もう少し、Los Lonely Boys のようにブルージーな感覚が強いかと思いましたが、そこ
そこという感じでしょうか。  国境の音楽というよりは砂漠の音楽といった感じです。 
骨太でごつごつした手触りは、いまのアメリカには貴重な存在なのでしょう。 彼らでなく
ては表現できないような個性があるかというと、かなり微妙ではありますが、うまく見つけた
スポットにすっぽりともぐりこんだというのが、マーケティング的にはあてはまるような気が
します。

   ということで、ライブを見てみないと彼らの真価はわかりませんね。 個人的には、
「Little Black Submarines」という曲が、Led Zeppelin の「天国への階段」にそっくり
なので、てっきりカバーかと思ってしまいました。 これは、どうなんでしょう。 Amazon
のレビューでも同じようなことを書いている人がいますが、個人的にはこれはあまりにも
パクリなのでいただけません。 偉大な先人へのリスペクトであれば、堂々とカバーして
ほしかったと思います。 
    しかし、この曲は物議をかもさないのでしょうか。 すでにリスナーの多くは
Led Zeppelin すら知らないという時代に来ているということだったら、仕方ないのですが。


Bon Iver [USA]


Bon Iver

Bon Iver

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Jagjaguwar
  • 発売日: 2011/06/28
  • メディア: CD


   毎年恒例のグラミー賞のノミネートが発表されました。 個人的にはまったく
興味がないのですが、何気に知ったノミネートのなかに、Bon Iver の名前がある
ことにびっくり。 今年発売されたアルバムをあらためて聴きなおしてみました。

  ボン・イヴェールと読むこのアルバムを知ったのは、Amazon のレコメンドで
した。 最近、なかなかかゆいところに手が届き始めたなあと感心していたところ
で、ユーザーレビューも高い評価だったので、エイヤーで買ってみたのです。

  結果としては予想したよりも SSW っぽくないと感じたので、そのまま放置気味
ではあったのですが、こうして時間をあけて聴くとじわっと染み込んでくるものを
感じます。 それは、ちょうど真冬のような寒さとなった今日の天気のせいかも
しれません。 北欧の針葉樹林にいるかのような空気の冷たさが、ここには横たわ
っています。 サウンドとしては、Sigur Ros や Jonsi のソロに近いボーカルの
加工が施されており、リズム・セクションは可能な限り存在を消すように奥まって
います。 グラミーの最優秀楽曲賞にノミネートされた「Holocene」などを聴くと
その浮遊感はドイツの Can に近いかも、と思ったりして。

   アルバムとしての完成度を高いとみるか否かは、リスナーの感性次第なの
ですが、僕としては世界観の打ち出し方は見事にはまっていると思いながらも、
やや単調で退屈してしまいます。 その要因は彼の薄っぺらい裏声と、そこから
人間味を取り除くかのようなエフェクトにあるように思います。  現代的で独創的
であり、意欲的な作品であることは認めますが、このまま君はどこへ向かっていく
の、と問いかけたくなる作品です。

   Bon Iver はこのように魂を凍結させながら、きっと北へ向かうしかないの
でしょう。

David Mead [USA]


Dudes

Dudes

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Pierian Recording Society
  • 発売日: 2011/11/15
  • メディア: CD


   David Mead の新譜が発売されているのを発見しました。 いつもは、発売から
半年くらいしてから気づくことが多いのですが、今回は我ながら早いと思います。

   しかし、まず驚いたのはこのジャケット。 David Mead はこんな顔だったのか、と
若干がっかりしつつ、よく見ると髪型が悪いんじゃないかと思うようになってきました。
これが Edwyn Collins の「Georgeous George」のようにカッコよく決まればよかった
のに、と思います。 タイトルが「Dudes」(気どりや)ですからコンセプトは間違ってい
ないと思うのですが。

   とはいえ、この堂々とした姿からは今までの彼にない自信が感じられ、それが
作風の変化につながっているのではないかという期待が徐々に湧いてくるのも事実。
実際に聴いてみると、信じられないほどにバラエティに富んだ音作りがなされており、
内省的でしんみりしていた David Mead 像はすっかりふっとんでしまいました。
   80年代の Squeeze が歌いそうな「King of the Crosswords」、幼児番組向けの
曲のような「Bocce Ball」、ほとんど70年代風のソウルアレンジの「No One Roxx This
Town No More」、こんなにアップテンポの曲は初めてだと思う「Knee-Jarek
Reaction」で聴くことのできるカラフルなサウンドは、まったく別人になってしまったか
と思うほどです。
   ただ、それが全部というわけでもなく、「I Can't Wait」や「Tell Me What I
Gotta Do」、「The Smile of Rachael Ray」のような清々しいサウンドもしっかりと収録
されており、ほっとした瞬間もしくは安らぎのひとときを味わうことができます。

  いずれにしても、過去の路線のままでは新たなファンの獲得も難しく、このまま
シーンに埋もれていってしまうことを恐れたのでしょう。 この方向性はミュージシャンと
して悪いことではありません。 こうして何度も聴いてみると、新たな側面と本来の持ち
味を交互にならべた曲順などもかなり意識された感じがあり、David Mead の新たな
リスタートを祝福し、応援したくなるのです。


Ryan Adams [USA]


Ashes & Fire

Ashes & Fire

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Columbia
  • 発売日: 2011/10/18
  • メディア: CD


   今年の秋は大豊作です。 すでに、Wilco、The Jayhawks、そして Joe
Henry と立て続けに渋いアメリカン・ロックを紹介してきましたが、今日は取り上げた
Ryan Adams の新譜は、それらを凌駕する今年最高の SSW アルバムとなりました。

  前作「Easy Tiger」から4年ぶりとなる「Ahes & Fire」は、前作のような自信みな
ぎるロック路線から一転、内省的なフォーク路線となっています。 この変化をどう受け
とるかはリスナー次第ですが、個人的には、Ryan Adams の感情を押し殺したり、情念
が漏れ出たりするボーカルの上手さに完全に参ってしまいました。 こんなに歌が上手い
といは本作を聴くまで気がつきませんでした。

  オープニングの「Dirty Man」、つづくカントリー風ワルツ「Ashes & Fire」、繊細な
バラード「Come Home」と、ゆったりとした時の流れの中で、極限までそぎ落とされた
シンプルでアコースティックなサウンドがゆるやかに蛇行していきます。  バック陣は
Benmont Tench のハモンド、Norah Jones のピアノ、Gus Seyfert のベース、
そして Jeremy Stacey のドラムスが主軸となり、曲によりストリングスが加わって
くる構成できわめて素朴で、まるで焚火のまわりでセッションしているかのような
リラックスした雰囲気も感じつつ、しんとした冷たい空気感が同居しているという
イメージです。

   ほとんどの曲が抑揚の効いた 70 年代風フォークのようなサウンドなので、おそらく
若いファンからは中盤あたりで敬遠されてしまうかもしれません。 しかし、この音に
繰り返し接することで、はじめて遠方に見えてくる新しい世界のことを忘れてはいけま
せん。 それは蜃気楼か幻かもしれないし、もしかすると希望の町かもしれないの
です。  Ryan Adams がついにたどりついた境地を、彼とともに共有するには、この
アルバムを繰り返し繰り返し聴き続けることでしょう。 それはある意味、修行のような
行為に思えるかもしれませんが、無理やり向き合う必要はないと思います。 仕事
をしながら、本を読みながら、通勤途中でヘッドフォンで聴く、といったいろんな聴き方
を受け入れてくれるアルバムだと思います。 

   ラストの 3 曲がまたしびれます。 心のひだを炙り出すような「Kindness」の素晴ら
しさ。 「Lucky Now」の枯れた味わい、そしてラストの「I Love You But I Don't
Know What To Say」で描きだされた喪失感には、短編小説の読後感と似たものを
感じます。  

   このアルバムは、才能あふれる大物ミュージシャンであることは誰もが認める Ryan
Adams がついに到達したひとつの頂点でしょう。 この秋、最大の収穫といえるアルバム
です。



Joe Henry [USA]


レヴァリー

レヴァリー

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/10/26
  • メディア: CD


   MUSIC MAGAZINE 誌の年間ベスト10の常連にして、コアな音楽通を毎回唸らせ
ているが、そのホットスポットから放れると、全く無名といってもおかしくない Joe Henry
の新作が発表されました。 多くの評論家が言及しているとおり、現代アメリカの SSW
界において最も異彩を放つミュージシャンであり、まさに鬼才ともいえる Joe Henry です
が、このアルバムが、また前作とは違ったシンプルさをたたえながらも、素晴らしい作品
に仕上がっています。

  Joe Henry の音楽は、もしTom Waits が 1970 年中盤にダミ声に変声しなかった
ら、こんな音楽を奏でていたに違いないと思わせるもの、と勝手に解釈しています。 
よって、すでに近年の Tom Waits は僕の興味の重力からは、軌道を放れて行ってしま
っています。

  Joe Henry のギター、ボーカルに加え、Keefus Ciancia のピアノ、David Pitch の
アップライトベース、Jay Bellerose のドラムスという4人が基本編成で、曲によっては
Marc Ribot などのおなじみのゲストが参加しているというスタイル。 ここ数年の作品
のなかでは最もシンプルで音数が少ないような印象を受けます。 比例して前面に出て
いるのが、渋さをより増した感のある Joe Henry のボーカルです。 歌というよりも、
ストーリー・テリングのように聴こえる曲もあったりして、そこを引き立てているのは、Jay
Bellerose の乾いたスネアの音ですね。 デジタル時代のいま、このような音をどのよう
な機材でレコーディングしたのか気になりますが、小劇場でお芝居を見ているような
錯覚におちいるほどの、近距離さを感じます。 そのあたりは、Joe Henry がプロデュ
サーとして培ってきた才能の蓄積なのでしょう。 音の魔術師、というと陳腐に響きま
すが、まさにそんな感じなのです。

  本作「Reverie」には音楽以外に重要な要素があります。 それはNotes (Life
Beyond Trembling) と題された短編小説のようなものです。 国内盤の解説では
「手記(震えの先にあるもの)」とあるこの文章は、それだけで独立した存在となっており
、これも含めて「Reverie」がひとつの作品なのだということを感じます。 デジタルで
データだけ入手するわけにはいかない、パッケージの魅力がここにはあります。  
英語の理解力のない僕のような人間には国内盤での訳が、今回はとても重宝しま
した。

  このアルバムを両親に捧げると明記した作品。 近年の Joe Henry の創作活動
の充実度を感じるのは毎回ですが、今回は、そこから放たれた鬼気迫る人間力に圧倒
される気がしました。


The Jayhawks [USA]


Mockingbird Time

Mockingbird Time

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Rounder / Umgd
  • 発売日: 2011/09/20
  • メディア: CD


   The Jayhawks 久しぶりの新作は、Rounder に移籍してのリリースとなり
ました。 そして、最大のニュースは Mark Olson の復帰です。 Gary Louris とは
2008 年の年末に Mark Olson & Gary Louris 名義でアルバムを発表していたの
で二人の復縁は明らかになってはいたものの、こうして The Jayhawks 名義で作品
をリリースされると感激もひとしおです。

  前作の「Rainy Day Music」は2003年のリリースでしたので、8年ぶりとなる
この新作。 「Rainy Day Music」はMark Olson が抜けてからの The Jayhawks
のなかでは傑作だったので、この「Mockingbrid Time」への期待は否応にも高まり
ます。 その期待は1曲目の「Hide Your Colors」でいきなり暴発。 いきなりふたりの
コーラスがユニゾンのように延々と続く Jayhawks 節ともいえるサウンドに、のけぞり
そうになります。 アコースティックでシンプルなサウンドに大きな変化はなく、セコイア
の大木が時とともに年輪を増していくように円熟したアメリカン・オルタナ・カントリーの
世界が広がります。

  彼らには、Wilco のような独創性やアイディア、先進性は感じられませんが、
それを理由に過小評価する理由はないと思います。 いい音楽をマイペースで続ける
こと自体が難しい時代だと思うからです。 「She Walks In So Many Ways」のような
ポップな曲に対しては、素直に向かい合って体を動かせばいいし、「Guilder Annie」
のようなバラードの前で目を閉じるも良し、「Black-Eyed Susan」のストリングスに
心を共振させるのです。 自分のメンタル状態を投影するかのような気持で、アルバム
を聴くことが大事です。

   このアルバムは2010年の11月から12月にかけてミネソタ州ミネアポリスでレコー
ディングされました。 この時期には雪も降り始め、かなり寒いと思います。 そうした
空気感を感じたり想像しながら接するのも、秋の夜長の過ごし方としては、悪くない
ですね。 国内盤が発売される気配はまったくありませんが、来年あたりの夏フェスで
待望の来日となってほしい偉大なアメリカン・バンドです。


Wilco [USA]


ザ・ホール・ラヴ

ザ・ホール・ラヴ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/09/28
  • メディア: CD


   現代のアメリカにおける最重要バンドである Wilco の新作は自らが立ち上げた
レーベル dBpm からリリースされました。 Bonus Track として Nick Lowe の「I
LoveMy Label」を収録したのも、彼らの新たな出発に対する自画自賛みたいなもの
でしょう。

   アルバムはノイズ的な入りからメロトロンによる音の波、そしてニルスの攻撃的な
ギターがさく裂するアバンギャルドな大作「Art Of Almost」で幕開け。 もしかして、
自信のレーベルをもったことで、マイナー指向が強まったのではないかとの不安がよぎ
りますが、その心配はここまで。 つづくシングル「I Might」からはほぼ4分程度の楽曲
がバラエティに富んで陳列されています。 この「I Might」は先日の、フジロック・フェス
ティヴァル でも演奏したので、耳に覚えがありましたが、曲調のシンプルさが際立って
います。 同じような雰囲気をたたえた「Dawned On Me」、ギターのフレーズが印象
にのこる「Born Alone」、ノスタルジックなカントリー「Capital City」など、かなり淡々と
中盤は進行していく印象です。 ギターが炸裂して目が覚める「Standing O」、アルバム
タイトルでありながら脱力系な「Whole Love」など、あっさりアルバムが終わっていくよう
に思えますが、ラストは12分の大作。 ところが、この曲には斬新なアイディアや意表を
つく展開は用意されておらず、ゆるやかに時間だけが過ぎ去っていく感じでした。

  そういう意味ではボーナストラックの「I Love My Label」は飲み会の締めの一言
みたい立ち位置で、あったほうがしっくりくると思いました。

  正直言って、いまの Wilco の実力を100%フルに発揮した作品だとは思えません。
もっとすごいアルバムが作れるはずだと思います。 このアルバムは、まずは引越しの
ご挨拶ということなのでしょう。  しかしながら、するめのように聴けば聴くほど味わいが
増していくあたりは、Wilco ならではの音楽の魔法が十分にふりかかっていることを表して
います。


The Red Button [USA]


As Far As Yesterday Goes

As Far As Yesterday Goes

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Grimble Records
  • 発売日: 2011/06/21
  • メディア: CD


   木曜日の Tower Record 渋谷店。 前回とりあげた Russian Red のとなりに
大展開されていたのが、この The Red Button です。 お店の人も書いていましたが、
ジャケットでがずるいですね。 1960年代初頭の雰囲気を漂わせ、きちんと季節感も
合わせてくるあたりの計算高さからは、音楽のクオリティの高さやサウンドへのこだ
わりを予感させます。

  はずれはないと確信して聴いたところ、これがまたずるい。 初期の The Beatles や
The Beach Boys へのオマージュのような楽曲のオンパレード。 曲によっては、The
Pale Fountains に代表されるような原点回帰的なネオアコの要素も加わり、あっという
間に全12曲が過ぎ去って行きました。 この青春の味わいをなんと表現すればいいの
でしょう。 ノスタルジックに赤面するもよし、純粋に心を熱くするもよし、平静を装って
器用な奴らだと論評するもよし、いろんな聴き方があると思いますが、それはすべて
リスナーの選択。 ここにある音楽を変えることはできません。 僕的には、メロディーも
サウンドも好きですが、甘酸っぱいボーカルとハーモニーがいいかな、という感じです。

  この The Red Button は、Seth Swirsky と Mike Ruekberg の二人による
ユニット。 ロス・アンジェルスを拠点に活動しているようですが、ふたりとも正真正銘
の音楽オタクなのでしょう。 きっと出会ったきっかけはネット経由じゃないかと妄想して
しまいます。 CDトレイの後ろにある写真からは、一見普通のように見えながらも、ただ
ならぬ視線をたたえた表情がうかがえます。

  この秋、恋人へのプレゼントに、ドライブのお供に、この The Red Button がいれば
きっとうまくコトは運ぶのではないでしょうか。 初期の杉真理が好きな方にも、お薦め
の素敵なアルバムです。

2007年のファーストも素敵なジャケットでした。


She's About to Cross My Mind

She's About to Cross My Mind

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Grimble Records
  • 発売日: 2007/03/13
  • メディア: CD



Damien Jurado [USA]


Saint Bartlett

Saint Bartlett

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Secretly Canadian
  • 発売日: 2010/05/25
  • メディア: CD


   シアトルをベースに地道な活動を続けるシンガー・ソングライター
Damien Jurado が昨年発表したアルバムを最近入手しました。 正しく言うと
散らかった机の棚の隙間から再発見したもので、「あれ!買っていたんだっけ」
という感じです。

   しかし、これをあらためて聴くと、彼の最高傑作ではないかと思うような
出来栄えです。 彼の作品を全部聴いているわけではありませんので、適当
なことを言ってしまいましたが、とっつきやすさが増しているように思います。
とくに 1 曲目の「Cloudy Shoes」の素晴らしさには驚きました。 完全に宅録
で、ややもすると引きこもりがちになってしまう Damien Jurado のソウルと
エモーションが、この 1 曲で解き放たれたような印象です。 映画のエンディング
とかで使われたら最高だと思います。 この曲だけで「買い」と断言できる名曲
でした。

  他にも「Throwing Your Voice」のようなスケール感のある曲は聴きごたえ
十分です。 この曲を過ぎたあたりから、いつものような陰鬱なたそがれムード
の曲が続きますが、そのあたりから完全に抜け出せないのは、それこそが彼の
音楽の本質だからでしょう。 しかし「Kalama」では珍しく力強いボーカルを聴か
せるなど、彼のメンタルの起伏を感じるような流れとなっています。 ラストの
「With Lightning In Your Hands」では、予想通りの静寂のなか息絶えるかの
ようにエンディングを迎えます。 こういうもやっとした闇を感じさせて終わるのは、
毎度のことなのですが、 Damien Jurado とは本当に不思議な人です。 Nick
Drakeのような雰囲気がお好きな方には、間違いなくお勧めできる作品です。

   日本ではほとんど紹介されない Damien Jurado ですが、FUJI ROCK
あたりが招聘してくれれば、いいのにと思います。 霧が立ち込めてくれると
最高ですが、そうなった場合にはお客さんは100人くらいしか来ないでしょうね。

   ちなみに、このブログでは彼の過去の作品「And Now That I'm In Your
Shadow」と「Caught In the Trees」も紹介していますので、暇があったらご覧
ください。


Thurston Moore [USA]


Demolished Thoughts

Demolished Thoughts

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Matador Records
  • 発売日: 2011/05/24
  • メディア: CD


   Sonic Youth の中心人物である Thurston Moore が Beck のプロデュースの
もとに制作したアルバムです。 これが、予想外の名盤でした。
   そもそもSonic Youth や Beck のアルバムを1枚も知らないし、興味がないと
いう方も多いと思いますが、それはそれでまったく問題ありません。 Thurston Moore
の過去の作品をさかのぼる必要もないかもしれません。 それは、ちょうどミュージ
シャンにとって個々のアルバムが連なる山脈だとするならば、このアルバムは独立峰
のような存在のように思えます。 彼の周辺に関して、特別詳しくないので、偉そうな
ことは言えませんか、個人的にはこうした孤高の存在感を示す作品が好きです。

   このアルバムの何がいいかというと、不安定で頼りなげなボーカルと、それに寄り
添うストリングスとの関係です。 それは病床に横たわる夫を看病するやさしい妻のよう
でもあり、ひそかに死を願っている妻のようでもあります。

   1970年代の初頭に、Nick Drake という孤高の SSW がいました。 彼はその死に
よって伝説となり、永遠の命を与えられることになったのですが、もし彼が生きていたら
こんな作品を作ったのではないだろうか、と思わせます。  すぐれたSSW には、ふさぎ
こんだ心の深奥に一筋の光を与えてくれたり、悲しみを増幅させることで、それを希望へと
変換させる力があったりします。 そうした力を求めて、リスナーは音楽に身を任せるの
です。

   ここでは個々の楽曲のコメントはしませんが、Thurston Moore の作りだした稀有な
名盤をぜひともご堪能ください。


Tedeschi Trucks Band [USA]


レヴェレイター

レヴェレイター

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/06/08
  • メディア: CD


  アメリカンロック、かくあるべし... そんなコピーをつけてあげたくなるような名盤の
予感がするアルバムの登場です。 テデスキ・トラックス・バンド、という名前にはピン
と来ない人が多いと思いますが、すでにギターの名手として君臨している Derek
Trucks とその奥さんである Susan Tedeschi が結成したバンドです。 昨年の
Fuji RockFestival に出演しているので、ご覧になった方もいることと思います。
  
  その夫婦を中心にしたバンドですが、1970年代のアメリカン・ロックのエッセンス
がそのまま浄化されて、新たに生命が吹き込まれたかのような瑞々しい魅力に
あふれた作品となっています。 Susan の伸びやかで迫力のあるボーカル、どう
すればこんなにいい音が出せるのかと思うほどの、Derek Trucks のギターが、自由
奔放に駆けめぐるさまは、限りなく爽快でエモーショナルなものです。

  オープニングの「Come See About Me」のギターとボーカルで、アルバムの
雰囲気はおおよそ把握できますが、個人的には「Bound For Glory」や「These
Walls」、「Shelter」といったミディアムな楽曲が好みです。 こうしたスロウやミディ
アムな曲だけを抽出すると、女性 SSW の傑作にすりかわってしまうことでしょう。 
このアルバムが傑作に仕上がった要因としては、姉さん女房である Susan Tedeschi
に主役の座を譲り、Derek Trucks が脇役に回ったことがあるように思います。 
Derekの絶妙なサポートは抑制されたギターソロに表れており、なかでも「Midnight in
Harlem」での美しいソロは天国に上っていくような気分にさせられます。

  主役の Susan も負けていません。 とくに「Until You Remember」では、太め
のボーカルがひしひしと迫ってきて、圧倒させられました。 Lucinda Williams も
真っ青という感じの迫力です。

  音楽で結びついた Susan Tedeschi と Derek Trucks が真剣勝負したかのような
アルバムは気心の知れたバックミュージシャンに支えられて、今年を代表するアルバム
に仕上がったと思います。
  あとは、Richard & Linda Thompson のようにおしどり夫婦が突然破局...みたいな
ことにならないことを願うのみです。 縁起の悪い締め方ですいません。

Tedeschi Trucks Band - The Making Of Revelator EPK from networking Media on Vimeo.



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