SSブログ

Damien Jurado [USA]


Saint Bartlett

Saint Bartlett

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Secretly Canadian
  • 発売日: 2010/05/25
  • メディア: CD


   シアトルをベースに地道な活動を続けるシンガー・ソングライター
Damien Jurado が昨年発表したアルバムを最近入手しました。 正しく言うと
散らかった机の棚の隙間から再発見したもので、「あれ!買っていたんだっけ」
という感じです。

   しかし、これをあらためて聴くと、彼の最高傑作ではないかと思うような
出来栄えです。 彼の作品を全部聴いているわけではありませんので、適当
なことを言ってしまいましたが、とっつきやすさが増しているように思います。
とくに 1 曲目の「Cloudy Shoes」の素晴らしさには驚きました。 完全に宅録
で、ややもすると引きこもりがちになってしまう Damien Jurado のソウルと
エモーションが、この 1 曲で解き放たれたような印象です。 映画のエンディング
とかで使われたら最高だと思います。 この曲だけで「買い」と断言できる名曲
でした。

  他にも「Throwing Your Voice」のようなスケール感のある曲は聴きごたえ
十分です。 この曲を過ぎたあたりから、いつものような陰鬱なたそがれムード
の曲が続きますが、そのあたりから完全に抜け出せないのは、それこそが彼の
音楽の本質だからでしょう。 しかし「Kalama」では珍しく力強いボーカルを聴か
せるなど、彼のメンタルの起伏を感じるような流れとなっています。 ラストの
「With Lightning In Your Hands」では、予想通りの静寂のなか息絶えるかの
ようにエンディングを迎えます。 こういうもやっとした闇を感じさせて終わるのは、
毎度のことなのですが、 Damien Jurado とは本当に不思議な人です。 Nick
Drakeのような雰囲気がお好きな方には、間違いなくお勧めできる作品です。

   日本ではほとんど紹介されない Damien Jurado ですが、FUJI ROCK
あたりが招聘してくれれば、いいのにと思います。 霧が立ち込めてくれると
最高ですが、そうなった場合にはお客さんは100人くらいしか来ないでしょうね。

   ちなみに、このブログでは彼の過去の作品「And Now That I'm In Your
Shadow」と「Caught In the Trees」も紹介していますので、暇があったらご覧
ください。


Thurston Moore [USA]


Demolished Thoughts

Demolished Thoughts

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Matador Records
  • 発売日: 2011/05/24
  • メディア: CD


   Sonic Youth の中心人物である Thurston Moore が Beck のプロデュースの
もとに制作したアルバムです。 これが、予想外の名盤でした。
   そもそもSonic Youth や Beck のアルバムを1枚も知らないし、興味がないと
いう方も多いと思いますが、それはそれでまったく問題ありません。 Thurston Moore
の過去の作品をさかのぼる必要もないかもしれません。 それは、ちょうどミュージ
シャンにとって個々のアルバムが連なる山脈だとするならば、このアルバムは独立峰
のような存在のように思えます。 彼の周辺に関して、特別詳しくないので、偉そうな
ことは言えませんか、個人的にはこうした孤高の存在感を示す作品が好きです。

   このアルバムの何がいいかというと、不安定で頼りなげなボーカルと、それに寄り
添うストリングスとの関係です。 それは病床に横たわる夫を看病するやさしい妻のよう
でもあり、ひそかに死を願っている妻のようでもあります。

   1970年代の初頭に、Nick Drake という孤高の SSW がいました。 彼はその死に
よって伝説となり、永遠の命を与えられることになったのですが、もし彼が生きていたら
こんな作品を作ったのではないだろうか、と思わせます。  すぐれたSSW には、ふさぎ
こんだ心の深奥に一筋の光を与えてくれたり、悲しみを増幅させることで、それを希望へと
変換させる力があったりします。 そうした力を求めて、リスナーは音楽に身を任せるの
です。

   ここでは個々の楽曲のコメントはしませんが、Thurston Moore の作りだした稀有な
名盤をぜひともご堪能ください。


The High Llamas [UK]


Talahomi Way

Talahomi Way

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Drag City
  • 発売日: 2011/04/19
  • メディア: CD


   正直、The High Llamas の新譜にはあまり期待していませんでした。 彼らの
名盤「Hawaii」がリリースされたのが 1996 年ということで、ずいぶんと月日が流れており
、もう新鮮な気持ちで The High Llamas と向かい合うことはないと思っていたのです。

   なので、CD ショップで見つけても、手に取ることすらしていなかったのですが、会社
の知り合いから、今度の作品はいいですよ、と薦められて、久し振りに購入してみました。
  
   これが、良かったのです。 1 曲目の「Berry Adams」のイントロからして、あの名盤
「Hawaii」の香りが。 この 15 年間はなんだったのかと思うほどの、不変的なサウンドが
凝縮されていたのです。 たしかに、ジャケットからは緩そうな雰囲気は伝わってきます
が、ここまでとは思いませんでした。 体幹ダイエットとかしていたら、このアルバム聴く
だけで効果がゼロになってしまうと思えるほど、脳みそも体もとろけ出てしまいます。
   彼らのアコースティックな彩りはさらに深まった感があり、とくにストリングスやホルン
の音色の心地よさには心を奪われます。 ちょっとうたた寝してしまうと、気付いたときに
は CD が終わってしまうほどの短さ(40分未満)ですが、それも悪くありません。

   現代の Beach Boys と評する人もいるでしょう。 この快作を持って、久しぶりに
来日してくれたらいいですね。 その際は軽く飲んでから登場したいものです。



タラホミ・ウェイ

タラホミ・ウェイ

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン・レコード
  • 発売日: 2011/04/20
  • メディア: CD



Tedeschi Trucks Band [USA]


レヴェレイター

レヴェレイター

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/06/08
  • メディア: CD


  アメリカンロック、かくあるべし... そんなコピーをつけてあげたくなるような名盤の
予感がするアルバムの登場です。 テデスキ・トラックス・バンド、という名前にはピン
と来ない人が多いと思いますが、すでにギターの名手として君臨している Derek
Trucks とその奥さんである Susan Tedeschi が結成したバンドです。 昨年の
Fuji RockFestival に出演しているので、ご覧になった方もいることと思います。
  
  その夫婦を中心にしたバンドですが、1970年代のアメリカン・ロックのエッセンス
がそのまま浄化されて、新たに生命が吹き込まれたかのような瑞々しい魅力に
あふれた作品となっています。 Susan の伸びやかで迫力のあるボーカル、どう
すればこんなにいい音が出せるのかと思うほどの、Derek Trucks のギターが、自由
奔放に駆けめぐるさまは、限りなく爽快でエモーショナルなものです。

  オープニングの「Come See About Me」のギターとボーカルで、アルバムの
雰囲気はおおよそ把握できますが、個人的には「Bound For Glory」や「These
Walls」、「Shelter」といったミディアムな楽曲が好みです。 こうしたスロウやミディ
アムな曲だけを抽出すると、女性 SSW の傑作にすりかわってしまうことでしょう。 
このアルバムが傑作に仕上がった要因としては、姉さん女房である Susan Tedeschi
に主役の座を譲り、Derek Trucks が脇役に回ったことがあるように思います。 
Derekの絶妙なサポートは抑制されたギターソロに表れており、なかでも「Midnight in
Harlem」での美しいソロは天国に上っていくような気分にさせられます。

  主役の Susan も負けていません。 とくに「Until You Remember」では、太め
のボーカルがひしひしと迫ってきて、圧倒させられました。 Lucinda Williams も
真っ青という感じの迫力です。

  音楽で結びついた Susan Tedeschi と Derek Trucks が真剣勝負したかのような
アルバムは気心の知れたバックミュージシャンに支えられて、今年を代表するアルバム
に仕上がったと思います。
  あとは、Richard & Linda Thompson のようにおしどり夫婦が突然破局...みたいな
ことにならないことを願うのみです。 縁起の悪い締め方ですいません。

Tedeschi Trucks Band - The Making Of Revelator EPK from networking Media on Vimeo.



Seapony [USA]


Go With Me

Go With Me

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hardly Art
  • 発売日: 2011/05/31
  • メディア: CD


  こういうジャケットに弱いんですよね。 そして、タワレコ渋谷店の試聴器に手が伸びて、
1 曲目の 10 秒で購入決定。 試聴器というのは雰囲気を確認するものであって、アー
ティストの全貌を把握するものではないと思っているので、いつもすぐにヘッドホンを外し
ています。
  ま、そういう個人的なポリシーはさておき、本当にずるいなあ~、と思いながら、すで
にレジへ直行したのです。

  雰囲気は、イギリスの Sarah Label のアーティストが持つ雰囲気をそのまま、甘酸っ
ぱく引きずっているのですが、彼らはアメリカ・シアトルのバンドのようです。 詳しいプロ
フィールを書いている日本語サイトが見当たらないので、よくわかりませんが、最近のシア
トル周辺は本当に面白いですね。

  アルバムは HMV 渋谷が昔の位置のあった頃の「渋谷系」サウンドに近いもので、
強引な表現をすれば、フリッパーズ・ギターのファーストに、The Felt の憂いを加え、舌た
らずの女の子に歌わせたようなものです。 サーフっぽかったり、日本の GS 風になったり
しますが、このボーカルは、クロディーヌ・ロンジェや佐々木麻実子に通じるアンニュイ
(おっと死語??)なものです。 おそらく、もっと近い女性ボーカルとかいると思うのです
が、すぐに思いつきません。 そのあたりは、今後出てくるであろうネットでの書き込みや
雑誌のレビューを参考にされることをお薦めします。

  全 12 曲で 34 分くらいのアルバムですが、これから初夏へと向かう砂浜にぴったり
なアルバムだと思います。 いっしょに聴く女性には是非ともワンピースを着てもらいたい、
と妄想してしまいます。 そんなごく一部の男性にはたまらない作品です。


Sara Bareilles [USA]


カレイドスコープ・ハート

カレイドスコープ・ハート

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: SMJ
  • 発売日: 2011/02/23
  • メディア: CD


  サラ・バレリスは西海岸の UCLA 出身のシンガーソングライター。 昨年発表された
このアルバムがセカンドとなります。 アメリカではビルボードのチャート1位を獲得するなど
人気があるようですが、日本での知名度はそれほど高くはないようです。
  彼女のサウンドは、大きく分けるとピアノ系SSWですが、全般的に春の日差しのように
暖かく、お花畑を散歩しているようなカラフルな雰囲気に満たされています。 大学時代に
アカペラ・コーラス部に所属していたということもあり、ボーカルも伸びやかで声量も十分に
備えています。 そういった意味ではなかなか弱点がみつからないタイプのミュージシャン
だと思います。 ただ耳の肥えたリスナーの方には、そういった万能性イコール個性の欠如
と評価されかねません。 しかし、このアルバムは聴けば聴くほど、楽曲のよさが伝わって
きて、そういったネガティブな評価はされないことでしょう。 「Hold My Heart」のような
スケール感あふれるバラードは、彼女の魅力を十分に引き出していますし、「Say You're
Sorry」のような可愛らしいミディアムもそつなく歌いこなします。 やはり晴れた日中によく
似合うアルバムだなあと再認識しました。 雨の日と夜ではないなあ、と。

  さて、ここまで書いてきて白状しますと、昨日彼女のライブに行ってきました。 初来日
ということでしたが、予想通りのパフォーマンスに満足の一日となりました。 彼女だけで
なく、バックバンドの余裕ある演奏とコーラスは、久しぶりにアコースティックな手触りを
感じさせるものでした。

  ライブが終わってからオフをとる彼女は、ボランティア活動のために震災で被害の大き
かった大船渡に向かうそうです。 しかも、1週間も活動するとのこと。 その気持ちと行動
力には尊敬の念すら抱いてしまいます。 サラ・バレリスのそうした活動は、今後の創作
活動にいい影響を与え、次の作品に反映されてくることでしょう。 感謝をこめて期待したい
ものです。

Fleet Foxes [USA]


ヘルプレスネス・ブルーズ [初回スペシャル・プライス盤] [日本盤のみ歌詞/対訳、解説付]

ヘルプレスネス・ブルーズ [初回スペシャル・プライス盤] [日本盤のみ歌詞/対訳、解説付]

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Traffic/Pヴァイン・レコード
  • 発売日: 2011/04/27
  • メディア: CD


   今年になって発売されたアルバムのなかでは、最も多くの人が期待に胸を
ふくらませていたに違いないFleet Foxes のアルバムです。 たった一枚のアル
バムで「アメリカの至宝」とまで言わしめた彼らのサウンドは、たしかに独特で
時代に左右されない普遍性を有しています。 それだけに、このセカンドはCD
ショップでも大展開されており、国内盤が先行発売ということで、僕も国内盤を
買いました。

  彼らのサウンドの特徴は、土俗的とも言えるようなアコースティックな世界の
なかを木霊のように響きぬけるボーカル&コーラスです。 奥行きを感じさせる
エコー感は彼らの真骨頂でもあり、他を寄せ付けない個性へとつながっています。

  さて、そのセカンドは当然のように期待が大きかっただけに、真剣に聴きまし
たが、期待を大きく上回るような意外性はありませんでした。 ボーカル部分が前作
より多くを占めているように感じましたが、たしかな確信は持てていません。
いろんなレビューが彼らの音楽を評していますが、個人的に思い出したのは、
何とイタリアン・プログレの1973年のオザンナの大名盤「パレポリ」です。 
  「パレポリ」のような呪術性やオカルトっぽさは、Fleet Foxes には無いものの
、アコースティックな音色の手触りやたたずまいには、類似点があるように思い
ました。 このサイトの読者には、オザンナの経験者は少ないと思いますが、
もし機会があれば一生に一度の大スペクタクルなので、味わってみてください。

  話がそれましたが、シアトル出身の彼らのライブはどんな感じなのでしょうか。
もし来日するとしたら、屋外でのライブが見たいですね。 森の香りと焚き火が
交じり合った夕暮れに聴きたい音楽です。 今年を代表するアルバムのひとつ
でもありますが、彼らがアメリカの音楽シーンのなかで最重要なバンドであること
は間違い有りません。

参考までに。


パレポリ(紙ジャケット仕様)

パレポリ(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: ディスク・ユニオン
  • 発売日: 2004/05/28
  • メディア: CD



Randy Edelman [USA]


The Pacific Flow To Abbey Road

The Pacific Flow To Abbey Road

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: CHERRY RED
  • 発売日: 2011/03/14
  • メディア: CD


   SSW としての Randy Edelman が戻ってきました。 彼が映画音楽の世界に
転進して20年以上経過しますが、突然、今年になって彼のオリジナル作品がリリース
されたのです。
   前作の「Switch Of The Seasons」は1985年の作品ですから、実に 26 年ぶり
に彼のボーカルがよみがえったことになります。 よく考えてみると CD の時代になって
から、初めてのボーカル作品となるわけですね。 ここまで封印していた理由も分かり
ませんし、突然、歌うことを再開した理由もわかりませんが、Randy Edelman ファン
としては、こんなに嬉しいニュースはありません。

  ジャケット・デザインが良くないなあというのが第一印象ですが、内容はマイルドで
メロウなピアノ・ナンバーで占められています。 ボーカルもやや年をとったという印象
は否めませんが、予想以上に歌えていると感じました。
  「If I Could Do That」、そして「Don't Forsake Me Now」と、冒頭のバラードの
美しさはさすがプロフェッショナルという出来映え。 全般的にリリカルなピアノや
アップテンポの曲はありませんが、落ち着きのあるミディアム系の楽曲が 12 曲連
なっているという印象です。「Surefire Plan」なんかは、「Prime Cuts」に入っていても
おかしくない仕上がりでした。 突き抜けるような爽やかさが感じられないのは、
タイトル通りこのアルバムがイギリス録音だということも影響しているかもしれません。
また、奥さんの Jackie de Shannon は本作では参加していませんでした。
  
  Randy Edelman の新作がネオアコで有名な「Cherry Red」からリリースされるとは
夢にも思いませんでしたが、彼の SSW としての復活が本作だけなのか、それとも次作
もありうるのかが気になりますね。 そして、本当の夢はピアノ弾き語りでかまわないの
で、来日コンサートの実現です。  名曲「Uptown Uptempo Woman」の流麗なピアノ
の調べが生で聴けたらと妄想すると、体が震えてしまいます。



Ron Sexsmith [CANADA]


Long Player Late Bloomer

Long Player Late Bloomer

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Thirty Tigers
  • 発売日: 2011/03/01
  • メディア: CD


  CD がリリースされたら迷わずに購入するというミュージシャンも少ないですが、
Ron Sexsmith はそのひとり。 店頭で試聴しようなどとは思わずに、即ゲットです。
  春にリリースされたこともあって、珍しくカラフルなジャケットながらも、いつもの
憂鬱そうな表情はそのままです。 これが、かえって安心感につながるのも彼の
唯一無比の個性と言えるでしょう。

  アルバムは疾走感のあるフォークロック調「Get In Line」や「The Reason Why」
で軽快にスタート。 中盤以降は徐々にしっとりし始める感じですが、ラスト前の
「Love Shine」でハイライトを迎える感じです。 すでに聴くのは10回目くらいですが、
Ron Sexsmith の持ち味は、聴くたびに味が出てくるところでしょう。 10回目くらい
になると、味がしみこんだおでんの大根のように、たまらない味わいに満たされます。
  
  正直、最初聴いたときは、今回はいまいちかなあ、と思ったのですが、こうして
熟してくると何の問題もありません。 これが、Ron Sexsmith の音楽の魔法なので
しょう。 多作なのにクオリティが落ちない稀有な存在の Ron Sexsmith の才能に
惜しみない賛辞を送りたいと思います。

  ところで、クレジットのなかに発見したのですが、「Eye Candy」という曲のバック
コーラスに、Don Sexsmith という人物が参加していました。 Facebook にも彼の
名前がありますが、どうやら父親のようですね。 もちろんフレンド・リクエストはしま
せんけど。


Peter Broderick [USA]

   以前とりあげた「Home」というアルバムが秀逸な傑作だった Peter Broderick
の最新ソロ・アルバム。 「Home」では、ギターやバイオリンなど多彩な楽器をこな
していましたが、この「How They Are」は、ピアノ主体の弾き語りアルバムとなって
いました。

  ソルフェージュのようなシンプルな繰り返しが多いピアノの音色は、透明感があり
ながらも、その響きは小さな教会のなかで聴いているような残響感もあります。 それ
でいて、つややかさも感じたりするとことが不思議です。 いっぽうギターの曲は
しっとりとしたときのWilliam Ackerman のようです。 そう、このサウンドはかつて
流行したWindham Hill の伝統を受け継ぎ、より私小説的な世界に逃げ込んだもの
と言ってもいいでしょう。 つぶやくようなボーカル、淡々と進行する演奏、時間が流れ
ているのに止まったような錯覚に陥る瞬間。 そういったものがこのアルバムには閉じ
込められています。

  さて、このPeter Broderick が4月に来日するとの情報を入手しました。 ベルリン
出身のピアニストNils Frahm との共演でのコンサートが全国6ヶ所で行なわれます。
東京は2回ですが、それ以外に金沢、富山、京都、大阪でのコンサートが予定されて
います。 いずれも小さな、そして個性的な会場で行なわれるようですが、ふたりの
ピアノの響きを肌で感じることができることでしょう。 詳しくはこちらのサイトを参照
してください。

http://www.cotelabo.com

  アルバムのラストは、極めて内省的なギターの弾き語りで締めくくられるのです
が、そのタイトルが「Hello To Nils」というもの。 歌詞に Nils Frahm のことは出て
来ないのですが、彼との出会いのことを歌っているのでしょう。 抑制された愛情が
ひしひしと伝わってきました。 ライブで聴いたら、鳥肌ものでしょうね。 


How They Are

How They Are

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Hush Records
  • 発売日: 2010/09/14
  • メディア: CD



Cowboy Junkies [CANADA]

  桑田佳祐や aiko の新作でにぎわう渋谷のタワーレコードで、僕がたった1枚
買ったレコードは、Cowboy Junkies でした。 まだ活動していたかという驚きと
感謝と、ジャケットの素晴らしさで即購入。 Timmins きょうだいも3人全員が残って
いて、安心しました。

  このアルバムは、2009年になくなった SSW の Vic Chesnutt に捧げる作品で、
全曲彼のカバー曲集となっています。  Vic Chesnutt の音はまったく聴いたことが
ないので、比較はできませんが、ゆったりした大河のような懐深い楽曲が多いという
印象です。 実は、彼は18歳の時に交通事故に会い、下半身不随となってしまったの
ですが、それを克服し音楽活動を続けてきた人のようです。 享年45歳ということで
、僕と同じ年に生まれていたことを知りました。 Vic Chesnutt については、あまり
多くが語られていないようなので、機会があれば探求してみたいと思います。

  そのVic Chesnutt に対する愛情と敬意がたっぷり詰まったCowboy Junkies の
新作ですが、サウンドに大きな変化はなく、オルタナ・カントリーの先駆者としての
存在感はより増しているような気がします。
  ちなみに、本作は、「The Nomad Series」と名づけられた一連のコンセプト・アル
バムの2作目にあたるものでした。 このシリーズは、2010年の5月から2011年の
11月までの18ヶ月間の間に、4枚のアルバムをリリースすることが計画されている
ようです。 女の子がヒョウをマフラーのように背負っているジャケットが素晴らしい
のですが、きっとこのシリーズはこのコンセプトで進むのでしょう。
  4枚揃ったらボックスにして保管したくなりますね。 そうなると、Disk Union さん
の出番でしょうか。


Demons

Demons

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Razor & Tie
  • 発売日: 2011/02/15
  • メディア: CD



Rumer [UK]

   信頼できる後輩から、「このCD聴きましたか?」と推薦され、借りて聴いて
いるうちに、完全に虜になってしまったアルバムです。 おそらく、2011年のベスト
アルバムになることは間違いないでしょう。 そのくらい優れた作品に、賞賛すべき
言葉を失いました。
   すでに母国のイギリスでは大ブレークしているという遅咲きの女性SSW
Rumer のデビュー作。 カレン・カーペンターをより無垢で繊細にしたかのような
素晴らしいボーカルと非のつつきようのないメロディーとアレンジがあいまって、
奇跡的に高い打点で融合したサウンドは、まるで1970年代の女性SSWの名盤
をミキサーにかけて、抽出したオリジナル・ドリンクのような味がします。
  1曲目の「Am I Forgiven」の雰囲気をどう伝えればいいのでしょう。 午後の
まどろみ、ソファーでだらっとしながらうたた寝してしまいそうな、脱力感。 それで
いながら、芯の強さも兼ね備えていて、こんな女性が近くにいたら、どうしていいか
わからなくなってしまうでしょう。 ジャケットは地味ですが、ブックレットのなかに
ある写真はエキゾチックな表情を浮かべていますが、どうやらパキスタンの出身
ということです。 どのような音楽を聴いて育ってきたのか、不思議な気分にさせ
られますね。

   アルバムのラストは、唯一のカバー曲。 しかもそれが、名曲中の名曲
David Gates の「Goodbye Girl」なのには気絶しそうになりました。 こんな満足
度の高いアルバムは、めったにありません。 ダマされたと思って、是非聴いて
みてください。 個人的にはアナログ盤がでないかな、と期待しています。


Seasons of My Soul

Seasons of My Soul

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Music
  • 発売日: 2010/11/01
  • メディア: CD



CAKE [USA]

   CAKE、実に 6 年ぶりの 6 枚目がアメリカのビルボードのチャート1位になった
という驚くべきニュースを耳にしました。 ところが、その枚数が 1 週間で 4 万 4000
枚だったそうで、アメリカのパッケージ市場の衰退のものすごさを実感しました。 その
程度の数字だったら、昔はベスト 10 にすら入れなかったでしょう。 谷間の週だったの
でしょうけど、あまりに変な目立ち方をしてしまったものです。

  その CAKE は、昨年末に apple の CM に昔の曲が使われて、その音の立ち具合
もあって、久し振りに聴いたりしていました。 この新作は、自主レーベルからの最初
のリリースということですが、彼らの作風に大きな変化はみられませんでした。
  John McRea のいなたいボーカルと、ほんわかした浮遊感、時折挿入されるトラン
ペットといった個性は彼ら独特のものです。 どこにでも転がっているようなメロディー
の「Got To Move」の田舎臭さ、つづく「What's Now Is Now」でのルーズ感など、
アルバムの中盤にいい曲が並んでいるという印象でした。 もちろん、買って損はあり
ませんでしたし、スルメのように聴くたびに味がにじみ出てくる彼らのサウンドは、アメ
リカ音楽シーンの宝かもしれません。 間違って、夏フェスにでも来て欲しいものです。

 最後に、このアルバムにこんなクレジットがありました。 ECO だとか叫ぶ前に実践
することの大切さを感じます。

 This album was written, rehearsed & recorded using 100% solar energy.
 Manufactured in USA using 100% recycled paper stock and vegetable dyes.




Showroom of Compassion

Showroom of Compassion

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Upbeat
  • 発売日: 2011/01/11
  • メディア: CD



石橋英子 [JAPAN]

  新年早々、日本の音楽シーンの懐の深さを思い知らされる名盤に出会い
ました。 twitter などでザワザワしていたので興味を持ち、美しいジャケットに
惹かれて購入したこのアルバムは、冬の透き通った空気感にぴったりくるサウンド
が魅力です。 北欧でレコーディングされたかのような音作りを全面的にサポート
したのは、音響系のミュージシャンである Jim O'Rouke です。 プロデューサー
として彼が起用されたことだけでも、スゴイと思いますが、それを凌駕する石橋
英子の存在感もお見事。
  予想通りのウィスパリング系ボイスなのですが、けして甘くならないところが
素晴らしいです。 また、ピアノの響きだけをとると、ECM系のジャズのような気品
を感じさせ、音と無音、あるいは音圧の強弱をうまく操ったサウンド作りは、かなり
斬新に聴こえます。
 
  個人的には、オープニングを飾った「coda」の変拍子でのけぞりましたが、
後半にかけてアンビエントな雰囲気も感じられ、Cassell Webb を思い出したりも
しました。 central67 というデザイナーによるジャケットやブックレットも秀逸で、
パッケージとしての完成度を高めることに貢献しています。

  彼女のレコードを聴くのは初めてですが、買って良かったです。 このレベルの
作品に出会えることは年に数回しかないと思われる傑作です。 耳の肥えた方や
最近の音楽に飽きた方は、ぜひ手にとってみてください。


キャラペイス

キャラペイス

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: felicity/Pヴァイン・レコード
  • 発売日: 2011/01/06
  • メディア: CD



The Morning Benders [USA]

   いろんな雑誌で2010年の年間ベストアルバムが発表されました。 Music
Magazine 誌で Paul Weller が 1 位というのには驚きましたが、こうした機会に聴き
逃した作品を知ることは、リスナーにとっていいことだと思います。

  このアルバムは、Snoozer という雑誌で 1 位となったもの。 この雑誌の熱心な
読者ではありませんが、タワレコ渋谷の試聴機で聴いてみて、即購入を決意しました。
  ジャケットのイラストがCDサイズではわかりづらいのですが、エメラルド色に輝く海辺の
風景が描かれており、季節外れですがバカンスムードにあふれた雰囲気を感じます。
  そして、サウンドもノスタルジックなもので、サンシャインポップに近かったり、ソフトロック
のように聴こえたり、ネオアコ気分に包まれたり、という感じで、総じてほんわか気分です。
感情の高まりとや衝動というものとは無縁な音作りは、ライブのときにどうなってしまうの
だろうかと思いますが、ちょうど、The High Llamas のライブはどんなものかな、と想像
するのに似た感じだと思います。 The High Llamas のライブを見たことある僕としては、
彼らよりもロウダウンな感じで、危ういものになるのではないかと思っています。 例えば、
ほろ酔いで登場したJonathan Richman みたいな感じかなあ、と。

  このアルバムが年間1位になることが音楽シーンにとっていいコトとは思えませんが、
フェイントをかけられて楽しむ余裕があるひとには、うってつけの作品かもしれません。
  僕はけっこう気に入りました。


Big Echo

Big Echo

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Rough Trade Us
  • 発売日: 2010/06/08
  • メディア: CD



図書館 [JAPAN]

  Amazon でてきとうにCDを探していたら、発見してしまい、60秒後にBuyボタンを
押してしまったアルバムです。 グループ名が「図書館」で、アルバムタイトルが「図書館
の新世界」です。 買わざるを得ないですね。

  男性3名、女子1名からなる「図書館」は、すでにキャリアのあるメンバーが集って
結成されたグループ。 紅一点の田中亜矢はソロでの作品もあるようです。 加えて、
栗コーダーカルテットで活動している近藤研二、セッションマンのイトケン、シンガー
ソングライターの宮崎貴士、という3人の男性で構成されています。 各々のソロの
音楽に関して接したことがないのですが、1970年代の喫茶店みたいな雰囲気、まさに
フォーキーなたたずまいから、素朴でアコースティックなサウンドを期待して購入を決意
しました。

  いま、2回目の途中でこのブログを書いていますが、田中亜矢の透き通ったボーカル
は「森ガール」(ちょっと古いですね)には、こんな声であってほしい、というようなもの。
クセになるような朴訥とした感じは「図書館」サウンドの核となるものでしょう。 そこに
ギターやピアノのアンサンブルがしっとりと加わって、懐かしい母校の木造校舎に突然
入り込んでしまったかのような気分にさせられます。 そこにあるメロディーは洋風な
ポップさではなく、和風な響き。 パソコンに取り込むことをためらってしまうような
アンチ・デジタルな世界です。

  数年前から「喫茶ロック」というプチ・ブームがありましたが、こうした音楽に真剣に
取り組んでいる日本人がいると思うだけで、うれしくなります。 何千枚とか売れる作品
ではないでしょうけど、マイペースで活動を続けて欲しいです。


図書館の新世界

図書館の新世界

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
  • 発売日: 2009/07/24
  • メディア: CD



宣伝 [JAPAN]

  私の高校時代からの友人が、脱サラをして吉祥寺のサンロード沿いに小さなカフェ
をオープンさせました。
  良質な音楽とおいしいお酒も楽しめるお店となっています。
  もし、お近くにお住まいの方がいらしたら、足を運んでみてくださいませ。

http://mojocafe.info/

  「Mojo Cafe」という店で、サンロードを西友を過ぎたところまで直進し、右側の
ビルの2階となります。

Ray LaMontagne [USA]

   Ray LaMontagne のニューアルバムが出ていました。 うっかりしていて最近まで
気がつきませんでしたが、そんなんではイカンですね。
   そもそも、このブログのタイトル「Till The Sun Turns Black」は、彼のセカンド・
アルバムから頂戴したものなので、それを考えると、誰よりも早くレビューすべきなの
です。 と、言っても、それほど熱心なファンも日本には少ないでしょうし、僕自身も、もの
すごく愛聴しているわけでないので、ある程度のスピードと誠意が出ていればOKで
しょう。

  なんて、独り言のようですが、この新作は彼の 4 枚目にあたる作品。 初のセルフ・
プロデュース作品です。 また、Ray LaMontagne and the Pariah Dogs というバンド
名義となっています。 そのあたりもあってサウンドが大きく変容しているのかと思い
ましたが、予想したほどのことはありませんでした。 バンドとしてのアレンジは、あく
までもしっとりとまとめられ、そもそも Ray LaMontagne が持っているグリニッジ・
ビレッジ周辺の空気感はそのまま保たれていると思いました。 個人的な好みとし
ては、「Like A Rock & Roll Radio」のような静けさをたたえた曲がいいですね。 
タイトルからは思いもつかない、秋の夜長のような静寂感です。 ペダル・スティールを
多用した曲が多いわりには、カントリー・テイストを感じさせないところは、さすが都会派
SSW のなせる技です。 なかでもタイトルもユニークな「New York City's Killing Me」
が最高です。 

  このような地味なアルバムですが、アメリカではビルボード・チャートでは初登場 3 位を
記録しています。 にわかに信じがたいことですが、こうした良心的で不変性を持った
音楽が支持されることは素晴らしいですね。 iTunes で買いたいような音楽ではない
ので、CD が売れてチャートインしたのかもしれません。


God Willin & The Creek Don't Rise

God Willin & The Creek Don't Rise

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Red Int / Red Ink
  • 発売日: 2010/08/17
  • メディア: CD



God Willin & The Creek Don't Rise [12 inch Analog]

God Willin & The Creek Don't Rise [12 inch Analog]

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Red Int / Red Ink
  • 発売日: 2010/08/17
  • メディア: LP Record



The Cavalcade [UK]

   昨日、HMV 渋谷店が 20 年の歴史の幕を閉じました。 渋谷系といわれる音楽の
発信基地として果たした役割は大きいものがあると、メディアは書きますが、個人的
には、その役割は移転前の 1998 年で終わっていたように思います。 現在の場所に
移ってからの HMV 渋谷店は、エスカレーター横に再発関係やマニアックな品揃えを
していたことは素晴らしかったのですが、「レコード屋」的な雰囲気は、昔のほうが
あったかような気がします。

   そんな店に昨日出かけて買ってきたのが、このアルバム。 そういえば、ポイント
を使い切っておこうと思って、1 枚だけ買ったのです。 結果的に、僕と HMV 渋谷を
結びつける最後の CD となったのですが、その内容はお別れの 1 枚にふさわしいもの
になりました。

   The Cavalcade は、ブリストル出身のデュオだそうで、リリカルなギターとウィス
パリングに近いふわふわボーカルが、まさに「渋谷系」といえる味わいをかもし出して
います。 一番近いアーティストとしては、The Felt があげられますね。 本国でも
そのような論調のようです。 しかし、このアルバム、1995 年頃の HMV 渋谷が大プッ
シュしたら、かるく 1,000 枚くらい売ってしまうことができたかもしれません。 そんな
ことを考えながら聴いていると少しばかり切なくなってしまいました。

   「Meet You In The Rain」、「Your Old Room」、「Ghost Of This Town」
といった曲のタイトルも、霧のヴェールにつつまれたようなイメージがあって、つい
にんまりしてしまいます。

   このデュオが、どんどん有名になってヒット曲を飛ばすというイメージはまったく
ありません。 次のアルバムにたどりつけるかどうかすら、不安にさせられます。
そして、そんな不安すらも、僕と HMV 渋谷との微妙な信頼感と同じように、やがて
風化していくのでしょう。

   
Many Moons

Many Moons

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: happy prince / NATURE BLISS
  • 発売日: 2010/08/18
  • メディア: CD



The Flaming Lips [USA]

   Flaming Lips が昨年 iTunes 限定で発表した Pink Floyd の「狂気」のまるごと
カバーアルバム。 Flaming Lips は1枚だけ聴いたことのあるバンドで、批評家筋にも
一定の評価を得ているベテランなので、ここは信頼して購入しました。

  結論から言うと、かなり忠実にカバーしているなあという印象でした。 ややテンポ
がアップしている気がしますが、心臓のドクドク音で始まり、終わるところもきちんと
再現しています。 アマゾンのレビューなんかには、「踊れる狂気」といった表現が
ありましたが、なるほどそのとおり、という印象です。

  オリジナルの「Time」や「Money」で聴けたあの効果音はどうなっているのかと
気になる方も多いと思いますが、これはある意味映画サイトでの「ネタバレ禁止」に近い
ものだと思いますので、敢えて書きません。 というほど、斬新なアイディアがこのアル
バムにあるわけでもないのですが、こうした企画モノは自身の選球眼を楽しむものだと
思うのです。

  このアルバムを聴き終えて、オリジナルの「狂気」を聴きたくなったかといえば、
そうでもないし、むしろしばらくいいや、と感じました。 そのあたりがこの作品の妙
なのかもしれません。


Doing Dark Side of the Moon

Doing Dark Side of the Moon

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros / Wea
  • 発売日: 2010/05/10
  • メディア: CD



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